164 ワタスゲの木琴

雲井ケ原を訪れたときのことです。白いワタスゲが風に揺れていました。腰を下ろして見ると、湿原の周りに蝦夷赤松が取り囲んでいます。それをワタスゲが叩いているように見えました。

ワタスゲは風に揺れる
ワン ツー と首を振る
まるで バチのような形をして
蝦夷赤松の風に吹かれた幹を叩く

荒々しい幹から出る音は
目にはサワサワと聞こえるが
耳には何も聞こえない音だ
ワタスゲは それを承知で 叩く

疲れた ひとの心には
癒しのひと時を
悲しい ひとの心には
励ましのひと時を
ワタスゲの木琴は奏でる
心の中の演奏会

爽やかな高原の湿原に
優しく風が行き交う
過ぎ行く風が頬をかすめるとき
ワタスゲが風に託した音を残す
ワタスゲの音色
白い音 フワフワの音色を


2003年7月8日 雲井ケ原にて








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