163 白霧の貴婦人

風不死岳に登ったときのことです。朝早かったせいもあるのですが、白い霧が辺りを覆っていました。それは何の変哲も無い風景でも、白い霧が立ち込めると幻想的な風景に変ってしまうのです。その中でギンリョソウは生き生きとしていました。

白い霧は自由に空を飛ぶ
白い翼を広げ大地を包む
白い雲さえ寄せ付けず
青空を遥か彼方へ退ける

それは 天空に八重に 十重に
翼を広げ 全てを白に同化させる
深い谷さえ 埋め尽くす
木の葉は まるで白霧に融けで
緑色を忘れ 滴り落ちる

白霧は大地に帰るまで放浪し
白い翼を絵筆の様に動かし
荒々しい岩は まろやかに
荒れた木の肌は 初々しく
白さの濃淡で描き直す

ギンリョウソウは
Oの口をして白霧を吸い
木の葉の滴りを全身で受け止め
大地へ白霧を導く道標に相応しく
透き通る白い色となり佇む


2003年6月28日 風不死岳にて




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