96 然別湖の唇

然別湖の白雲山と天望山へ行ったときのことです。東雲湖近くの岩場は苔むし、ナキウサギが鳴いていて、原始の姿を留めていました。
東雲湖を抱く天望山は唇の形をしているので一名唇山と呼ばれています。対岸から見ると、湖面に山陰が映って下唇に見えます。一直線に口をきりっと閉めた唇です。

唇山と東雲湖を結ぶ道は
原始の森への迷い道
原始の森は東雲湖の辺
ナキウサギの棲処
ゴーロ ゴーロ 岩の家

丸い苔は毛糸のセーターの様に
フワフワ苔は絨毯の様に
思い思いに岩や朽木を覆う
緑や白の空間を作り
原始の香を漂わせる

苔むした岩と岩の間で
ナキウサギがピュー ビュー
キチキチキチと鳴いているようだ
幻聴か 北風の擦れる音なのか
わからないうちに耳から離れ
音が岩陰に隠れる
それを見てか 小鳥が笑う

小鳥はシャクナゲの葉に止まり
常緑の大きな葉を揺らすと
シャクナゲのトンネルは
次から次へと 緑の天井を揺らし
雪化粧した山々や
雪雲に包まれた山々の
白さを引き立たせる

上唇は山となり 然別湖の上にあり
下唇は湖底にこもる
風が止むとき 湖面に姿を現す
湖の水を飲み干すでもなく
一直線に大きな口を閉じ
何も語らずとも 何かを語りかける


2001年11月3日 白雲山・天望山にて


山の詩もくじへ  次カニとカレイの遊びヘ  北の山遊詩へ