89 羽蟻

八剣山に登ったときのことです。物凄い数の羽蟻が舞っていました。元来、蟻は地上の生き物なのですが、子孫のため最後の戦いのため羽根を付けて、そのほとんどが死んでしまうのですね。人間でも羽根を与えられ、一族の名誉のため死んでいった特攻隊の方々がいます。それを思い出し、悲しくなりました。 

蟻は大地の命なのに
羽蟻となって自らの命を
天空に散らす
己の運と寿命に戦いを挑むのか

羽蟻は自らの命を捧げ
子供に命を託す
悲しい運命にも負けず
与えられた定めを生き抜く

蟻は蟻としては死なず
エンジェルの様に羽根を付け
羽蟻となり天空に舞い
まったく異なる生き物を装う

蟻界には悲しみを残さず
羽蟻として蟻界を去る
この悲しみを残さない気遣いは
吾には なお悲しい


2001年9月9日 八剣山にて


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