187 沼の時計

 松山湿原に登ったときのことです。沼の水面は真っ青で綺麗で、時も止まってしまったようでした。青い水面には松も映っていましたが、そよ風が吹けば、ゆっくり消えて行き、時間がゆっくり進みます。風が止めばまた松が現れ、時間が止まります。

沼の水面は青空のように
白い雲を浮かばせ
水面の上を滑らせる
沼の水面は
大きな青い鏡のように
時には 松の梢も映しだす

青い硝子のような水面に
そよ風が渡るとき
水面に風の吐息を削り込み
水面に映えた木々を削り取る

まるで 稚児が糸巻きを
コロコロと転がし遊ぶように
風の吐息は 水面の上を
ゆっくりと転がり歩く
すると 水面は風の吐息の真似をして
風の吐息のままに 時を刻みだす

そよ風が水面を通り過ぎると
沼の水面は松の姿を映しだし
瞬き忘れた大きな青い瞳のような
青空に化身し また 時を止める
沼の時計は 風まかせ


2006年7月1日 松山湿原にて
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