134 カムイの雪楽譜


尖った岩尾根のあるウェンシリ岳に登ったときのことです。対岸の斜面には指で落としたような形の雪崩痕があり、その下の沢は氷のトンネルに代表されるように、まだ、雪で埋っていました。

カムイは春を待つ
雪が融けるのを待っている
雪の山肌に爪で楽譜を描き
春の曲を作っている

カムイが楽譜を描き終わると
山肌を叩いて 雪崩を起こし
春の曲を奏で始める
雪は斜面から滑り降り
山肌にはカムイの楽譜が
カムイの雪楽譜が現れる

沢は雪を集めて
やがて融けて流れ
春の曲を奏で続ける
夏になっても春の曲は止まず

その内 山では木々が芽吹き
草花は咲き 夏の歌を歌うが
それでも 沢は春の曲を奏で続ける

夏風は沢の雪を目掛けて
尖った岩尾根を越えようとするが
引き裂かれ 悲鳴をあげる
まるで 雪城を守る城壁のようだ

雪城は氷のトンネルの奥
白い霧の門番に守られ
カムイは雪城の中で
ゆっくり早春を満喫している


2002年7月6日  ウェンシリ岳にて

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