3 母の思い出


佐幌岳の岩の上で汗をかいて、寝ていると、ふと、母親のことが頭に浮かんでいた。
そういえば、病院のベッドで目の覚めることのない母の額から汗が吹き出ていたなあと、その汗を手で拭きながら、前に母の体に触れたのはいつだったかなあ!全然覚えていなかった。

母と初めに何を話したか
覚えていようもないが
最後に何を話したかも
覚えていない
だけど
母のうれしい顔 悲しい顔は
山ほど覚えている

子供の頃は
その顔に会うたびに
素直に 自分もうれしくなったり
悲しくなったりした

生意気盛りには
そのうれしい顔や悲しい顔
その顔を無視したこともあった
そうすると
いっそう自分が悲しい心になり
やりきれないくらい
悲しい心になった

働き盛りは
子供のことで一杯で
ふと 暇になった頃には
もう母はいない
素直になれなかった自分を恥じる
しかし
何処かでまだ見ているようだ
かあさん


坂口さんへ

2000年6月18日  佐幌岳にて 


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