210 水玉の涙
美瑛岳に登ったときのことです。夏の終わりの冷たい雨風に負けないで、イワギキョウが咲いていました。雌しべに付いた水滴が涙のようでした。

山の霞みに揺られて咲いて
虫と遊んだ時期を懐かしみ
大きく花びらを広げるが
吹き付ける秋風に萎れそう

それでも 顔を上げ
笑顔で 咲いて
健気に 息づく色で
近づくものを楽しませる

秋風は枯れ沢を駆け上がり
赤や黒の木の実の上に
冷たい露だけ置いて行く
まだ 花が咲いていると知りながら

もう 来ることのない虫を追い
大きな目から涙を流し
凍えて 咲いて
夏の終わりを思い知る


2010年9月8日 美瑛岳にて

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