184 ブナの瞳

大平山に登った時のことです。ブナの白い肌にイタズラ書きがありました。それは古いものから比較的新しいものまでありました。このイタズラ書きは前の人の真似をして次の人、その次の人と引き継がれています。この悪い連鎖を断ち切りたいものです。

白いブナの肌は
朝には 日の出の初な赤を
夕には 夕日の燃える赤を
映し出す 銀幕だ

白いブナの肌は
通り過ぎる風や動物達の姿を
短く咲き誇る花々の香りや姿を
その年 その年々を
年輪に伝える 瞳でもある

悪戯書で 傷付けられた瞳は
過ぎ去ろうとしない傷を
ただ 虚ろに眺めるのみで
何も伝えられない

春に 綺麗な色に芽吹いても
夏に 深く緑に茂っても
秋に 激しく紅葉しても
冬に 光り輝く銀世界になっても

人の心無さが目に沁みて
涙が 涙が 止まらない
今日も 涙が朝露に滲む
ブナの瞳は 濡れている


2005年9月3日 大平山にて



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