133 国後の風


羅臼岳に登ったときのことです。羅臼平に上がる沢は雪渓があり、直登しました。雪渓を登っているときは暑くて大変だったのですが、羅臼平に着いた途端に涼しい風が通り抜けました。
今回は定年退職と結婚記念が重なってしまったので、若いときに住んでいた地方の山を登ろうと、羅臼岳を選んだのです。

緑のハイマツに囲まれた沢の
雪渓を登ると 風が迎えてくれた
それは 国後をかすめてきた
涼しい羅臼平の風だった
羅臼平は 花々が咲き乱れていた
六月の季節はずれに降った雪は
残雪というには 柔らかく白すぎる

頂上を見上げれば
敢然として自信に満ちた
岩山が今もある
昔と変わらない形相で
待ち受けている

振り返れば
三ツ峰の山腹には
逃げ遅れた熊が
己の形を変えないで
雪渓になりきっている

みんな何所か昔と違うはずだが
悟られないように飾っているのか
自然は花々でいっぱいだ
花々は何時も 誰にでも
咲いていることを誇りに
笑顔を見せている 惜しまずに

私には誇りに思うことも
人に見てもらうことも無い
元々そんなものは無かった
国後島を見ていると
もう どうでも良かった
心地良い風がまた通り過ぎて行った
二人の髪を優しく梳る 国後の風が


2002年6月29日  羅臼岳にて

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