物語8 ひぐま先生物語
    みなさんひぐま先生の正体をご存知ですか?
    いいえ、あなたの本当の正体を知っていますか?
(1)ひぐまの子供時代
 ある春の日のことです。ある山で2頭のひぐまの赤ん坊が生まれました。
 しかし、赤ん坊たちは生まれてまもなく、崖から落ちてしまいました。そして、1頭が死んでしまい、1頭だけが生き残りました。

 親熊は赤ん坊に死なれて大変悲しかったのですが、残った1頭を大変だいじに育てていました。雄だったので、快活で、良くいたずらをしていました。いつも、お母さんの後について、山をかけて遊んでいました。水溜りがあると一目散に入って泥んこになりながら遊んでいました。

 秋になると、落ち葉が舞うので、それを追いかけて遊んだり、落ち葉が溜まっていると、わざと落ち葉の中に入り遊んでいました。あの落ち葉のざわざわとする感触がとっても好きだったのです。

 やがて冬の気配がするようになると、冬眠のため、ドングリ、コクワ、ヤマブドウなどたくさんの食べ物を来る日も来る日も、お腹一杯食べました。お母さん熊は何時もとは違って、食べるのが下手で、前足の毛を汚してべたべたにしていました。それを見て子供のひぐまは笑っていました。ああ、お母さんの下手くそとでも言っているようでした。子供のひぐまはといえば、もちろん、食べるのが下手で、体中、コクワやヤマブドウのカスだらけでした。お母さん熊はそれを黙って見て、笑っていました。

 そして冬が来たので、お母さんが夏に見つけておいた穴に眠りに行きました。
 しかし、冬ごもりの時には、お腹が空いて、泣いてお母さん熊を困らしていました。お母さん熊はコクワやヤマブドウの汁のついた前足の毛をなめらせて、子供のひぐまの気をそらしていました。このとき子供のひぐまは、何故お母さんがコクワやヤマブドウを食べるときに前足の毛を汚したかがわかりました。そこで、子供のひぐまも自分の毛をなめってみました。すると、空腹感がなくなり、うとうとと良く眠れるようになりました。

 やがて、暖かな春になり、母熊と穴から出る時がきました。まだ、穴の周りは雪だらけで到底春とは思えないのですが、辺りの空気は暖かでした。渡り鳥も飛んで来るようになりました。
(2)地上に星空を見つけた
 ある日、子供のひぐまは綺麗な星空を見上げていました。もっと側へ行って良く見ようと、一人で山をどんどん越えて行っんです。すると、山の下にも星空があったのです。山の下の星空は、色々な色で輝いていました。今まで見たこともない星だったのです。流星が次から次へとゆっくり横へ飛んでいました。それが凄い、うめき声を上げていたのです。
 怖くなって、母熊のところへ逃げ帰えり、言いました。母熊はそれでも笑って聞いていました。

 しかし、子供のひぐまも大きくなって、すごく地上の星に興味を持ち始めました。初めは恐れていたのですが、どうしても地上の星に触りたくなり、お母さん熊に相談しました。「お母さん、ぼく地上の星に触りたい」と言って、お母さん熊を困らせました。お母さん熊は子供のひぐまの夢を壊すようだが、あそこは人間という野蛮な動物が住んでいて、大きな巣や、人間を乗せる大きな動物が走っている。おまえが行ったら、鉄砲で撃ち殺されるよ!隣の息子もあの街に迷い込んで帰ってこなかったでしょうと言いました。

 それでも、行くというので、お母さん熊はみすみす息子が殺されるのを見ているわけにいかず、アイヌカラカムイに相談しました。アイヌカラカムイとは人を作った神様で、色々と熊たちの面倒をみていました。すると、アイヌカラカムイは人間になって行きなさい。ただし、二度とひぐまには戻れないし、人間になったら段々ひぐまの時の記憶がなくなるよと、物語に付き物の条件を出しました。
(3)人間になることを望む
 子供のひぐまはお母さん熊と会えなくなるが、それでも行く決心をしました。アイヌカラカムイは仕方なく、洞窟に子供のひぐまを連れて行きました。そこはびっくりするような所でした。まるで太陽があるような明るい所なのです。

 そこには色々な機械が並んでいました。子供のひぐまはその中のカプセルに入れられました。子供のひぐまのDNAを人間のに変えるためです。

 子供のひぐまはそのカプセルの中で、ぐっすり寝てしまいました。目がさめると何も変わった所は見あたらなかったのです。「アイヌカラカムイさん私は何にも変わっていません」と言うと、そんなに早く人間にしたら、死んでしまうので、時間をかけて人間にすると言っていました。

 いったん、お母さん熊の所に帰って遊んでいるうちに足が長くなり、歩き難くなったので、仕方なく二本足で立って歩くようにしました。また、しばらくすると、あごや歯も気のせいか小さくなり、植物の葉も食べ難くなりました。さらに、気のせいか、頭の毛が伸びて、体の毛がだんだん抜けてきました。寒くて寒くてしょうがないので、お母さん熊の所に帰りました。

 すると、お母さん熊は子供のひぐまをアイヌカラカムイの所に連れて行きました。お母さん熊は涙を流して帰って行きました。子供のひぐまはもうひぐまの言葉を話せなくなっていたので、「お母さんありがとう」と言えませんでした。

 アイヌカラカムイは子供のひぐまに人間の言葉を教え、すっかり人間らしくしてしまいました。アイヌカラカムイは毎日、窓のようなところから盛んに人間を見ていました。いつも見ているところはどうやら人間の病院のようでした。そこには、子供のひぐまそっくりの人間が苦しんでいて、病気で死にそうに見えました。

 そばには、その子供の両親でしょうか、涙をだして泣いていました。その子はもう呼吸もしていませんでした。
 しかし、お医者さんはあきらめず一生懸命何かをやっていました。すると、アイヌカラカムイは子供のひぐまとカプセル状のものに入り、たくさんある計器類を操作していたと思ったら、あっという間に、先ほどの窓に映っていた所にいました。人間たちはなぜか動いていませんでした。そこで、アイヌカラカムイは死んでしまった少年をそっと抱いて、今きたカプセルに乗せました。どうやらそれはタイムマシーンのようです。

 そして、少年が寝ていた所に寝なさいと言って帰って行きました。アイヌカラカムイは洞窟に帰り、母熊にその亡骸(なきがら)を見せました。すると、母熊は涙を流して泣き、その亡骸を山の一番景色の良いところに、穴を掘って埋めました。

 一方、病院では少年の両親が大喜びをしていました。死んだと思っていた息子が生き返ったのですから!両親がなんども、なんども、お医者さんにお礼を言っていました。
 まもなく、何処も悪いところがないので、退院となりました。少年の両親はすっかり嬉しくなって3人で家に帰って行きました。少年の身代わりになったひぐまは、あの地上の星の正体を見てびっくりしました。

 まず、地上の流れ星だと思っていたのが自動車という乗り物だったのです。星は電灯や家の明かりなどでした。さらに、子供のひぐまは外が夜になっても家の中がいつまでも昼のままでびっくりしました。

 食べ物も今まで食べたこともない美味しい食べ物でした。しかし、どうも歯ごたえがありませんでした。夜になっても寝付けず、お母さん熊のことを思い出して泣いていました。泣いているうちに朝になっていました。
 日がたつうちに段々、山の記憶がなくなり、それに必死で抵抗していました。けれど、いつかは山の記憶がなくなるので、その前に人間と熊が本当に違うのかを確かめたくなりました。そこで、病院で会った医者のようになって、違いを確かめようと思い、一生懸命勉強しました。そして、念願の大学へ入りました。

 そして、どうしたら、人間と熊は仲良く暮らせるのだろうかと頭を痛めていました。そのうち、ひぐま先生も一人前の医者になり、人間の病気を治していました。病気が治るとみんなにこにことして帰って行くのがたまらなく好きでした。

 しかし、ひぐま先生は日常の生活に物足りなさを感じていました。それは山で遊んだ記憶が体に残っていたから、山へ行きたくてしようがありませんでした。暇を見つけては山登りをして楽しむようになりました。山へ行くとなにか吼えたくなってしまいます。吼えることができないので、いつも詩や曲を作り、歌っていました。

 それを母熊が遠くで、懐かしそうに聞いていました。しかし、母熊は決して、昔息子だったひぐまの前に現れるようなことはしませんでした。いつもどこか息子に似ている人間を、木陰から見守っているのでした。
(4)最後に
 ひぐま先生は、人と熊は同じ動物だという信念を持っています。本当に熊の体が人と何所が違うか、気になっていのでした。勉強して人間の医者になって、わかったことは、人も熊も形や大きさは違うが機能的には同じ作りだった。
 けれど、何で人間は熊を恐れて、鉄砲で撃ち殺すのだろうと、疑問が湧いてきた。

 ひぐま先生は病院勤務で疲れたときには、むしょうに山が恋しくなって、山へ行き良い空気を吸って、花、虫、鳥達と遊び活力を得ていなければならなかったのです。

あなたな、何の生まれ変りでしょうか?狐や狸に似ている人もいますね。みんな動物は同じ命を持っています。親もいれば子もいます。友達だっています。それぞれの個々の存在を尊重して仲良くしましょうね!

 ひぐま先生が道東の「ひぐま」を辞める記念に

   2001年2月21日 自宅にて
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