14 腕時計


小学校に、刃物を持った男が乱入して、8人の幼い命が奪われました。
昨日は、息子を亡くした親の話しを聞き、涙がでました。
最後にそっと息子の形見だという腕時計を見せてくれました。
親としては子供に先立たれることぐらい残酷なことはありません。

子供の形見の腕時計
文字盤が小さく 数字なく
老いた親の目には見難いが
時計を見るときは
いつも しかめ顔
なにかを隠して じっと見る

この時計の刻んでいる時間は
息子のものだったろうに
それでも 針は回る
息子のためだった時刻を
必死に老いた親に告げるように
時計の針は刻んで 回る

人は虚空間を抱く
心の中に 心の底に
登った山も
冬の山 春の山 秋、夏の山
白雪の中に花を見る
新緑の中に吹雪を感じる
同じ山なのだから

山野を駆けて遊んでいる子供
受験勉強している高校生
友と語り合っている大学生
仕事のミスで怒られている新人
定年まじかでお払い箱の窓際族
老いさらばえた一人の男
これは みんな自分
その時それぞれで生きている
どこで止まるかわからない
自分の人生の腕時計


 2001年6月9日 自宅にて


亡くなられた方のご冥福をお祈りします。



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